悲観的な脳でも楽観的に変えられる?

楽観、悲観の性格はなぜ形作られるのだろうか?オックスフォード感情神経科学センターを率いるエレーヌ・フォックス教授が2009年に発表した論文は、「セロトニン運搬遺伝子」の方が楽観・悲観を決めるのではと示唆するものだったそうだ。しかし、だとすれば性格は生まれながらの遺伝子の型で決まってしまうのだろうか。
ここで意外な人物が、自らの遺伝子を調べてほしいと教授に申し出ることになる。マイケル・J・フォックスだ。成功の絶頂でパーキンソン病にかかっていることがわかり、再起不能か、と言われるなか見事にカムバックを果たした「楽観主義」の持ち主だった。
教授は脳内で感情や気分を安定させる働きをしているセロトニンという物質に着目した。このセロトニンのレベルを保つ「セロトニン運搬遺伝子」は人によって3つのタイプがあり、それが楽観、悲観の性格を決めているのではないかという仮説をもって、このタイプとその人が楽観的か悲観的か分かる認知バイアスとの関係を調べたそうだ。
認知バイアスというのは、画像を見せた時に楽しげな楽観的な画像か、怖い悲観的な画像かどちらに最初に注意を払うかによって分かるそうだ。その結果は、セロトニンという物質がより多く出るLL型を持っている人はポジティブな画像に引き寄せられ、発現量の低いSS型、SL型の人はネガティブな画像に引き寄せられるというものだった。この研究結果は大いに人々の話題となり、マスコミにも取り上げられた。この研究結果にある楽観主義の人物が興味を持って教授に連絡してきたという。
その人物とはマイケル・J・フォックスだった。マイケルは1980年代に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズで人気絶頂を極めていた。ところが、わずか28歳でパーキンソン病を発症し、人生のどん底に突き落とされたのだ。しかし、彼はあきらめなかった。粘り強く病気に相対し、苦境を逆手にとってパーキンソン病を抱える役柄で俳優復帰すると、今では自身の名を冠したTVシリーズに主演するほどの活躍を見せている。
教授はマイケルと会い、彼の遺伝子を検査した。検査の結果、意外なことにマイケルの遺伝子は悲観的なタイプに分類されるものだったそうだ。マイケルの遺伝子の型がきっかけで研究の見直しが進んだ。すると、悲観的と思われていた遺伝子の型は、実は外界の影響を受けやすい型に過ぎないことが分かったのだ。彼らはネガティブな経験をすると確かに悲観的になるのだが、ポジティブな経験をするとより高い幸福感を感じられる。逆境に打ちのめされやすい一方で、よいことからは最大の利益を引き出せるタイプだったのだ。
マイケルは幼少時、少し変わり者だと思われていたそうだ。しかし、彼の祖母は広い心で「マイケルは将来有名になるよ」と言ってマイケルを常に励ましてくれたという。そのポジティブな環境に彼のセロトニン運搬遺伝子の方はよく反応したのではないか、つまり性格は環境によって変えられるということが分かったのだ。
性格を変える方法の一つとして、ポジティブな画像を見るように訓練することで、悲観的な人が楽観的に変わっていくという実験結果が得られたそうだ。
また、失敗した時のことを考えてすべてがうまくいかないという人は、まず具体的に計画を立てて自分の挑戦をより客観的に見ることで、次第に落ち着いてみることができるようになるのだそうだ。
そして大切なのは「継続すること」。こうした努力を繰り返すことで少しづつ性格が変わり、物事もうまくいくようになるのだそうだ。脳科学とは何とも不思議なものだ。